2006年 宗会(常会)財務長演説(要旨)

200661

 

宗門財政の現状と財務上の課題並びに予算編成方針について申し述べさせていただくに先立ち、過般の新潟県中越地震を始め、昨今の台風、豪雪、天候不順あるいは火災等々により、多くの御同朋の日々の生活にも少なからず支障をきたす事例が数多く報告されており、これら災害に遭われた方々に対し衷心よりお見舞い申しあげる次第であります。

 

 さて、2005年度の財務状況について先ずご報告申しあげます。

 2005年度一般会計の歳入歳出予算総額849,560万円に対し、4月末現在の収入総額73402,821円、支出総額564,1197,469円であり、収入の内、御依頼総額535,300万円に対し、5月末現在515,1466,036円、約96.2%、内、同朋会員志は25,6054,203円、約91.4%のご収納をいただいたことであります。また、御遠忌総計画予算総額295億円に対し、4月末の収入総額は1416,3146,285円、支出総額1133,6141,043円であり、収入の内、5月末現在、2005年度御依頼22億円に対し297,5047,164円、率にして約135.2%、御依頼総額198億円に対して約64.6%であります。

 

このような結果をご報告させていただけますのも、ひとえに、有縁の御同朋の皆様からの格段のご尽力の賜であると有難く受け止めさせていただいております。これら尊いご懇念が運ばれてこそ真宗同朋会運動の推進が図られるのであり、その取り組みを通して「人類存続の危機」を克服して「同朋社会の実現」を目指そうとする大谷派宗門に対する期待感が、一人でも多くの宗門人に共感されていく宗門活動として尊重されなければならないと思慮いたします。特に、財務長を拝命し改めて思いますことは、宗門財政はひとえに教学の振興と教化の推進に奉仕する形で運用されなければならず、また財務は唯真宗同朋会運動の推進に資するものであらねばならないということであります。万一この点が抜け落ちることになれば、御遠忌・御修復事業の円成はあり得ないでしょう。よって予算編成・執行の両面にわたり、この基本に立ち適正を確保して厳しく対応してまいる所存であります。

 

このような視点を踏まえ、今議会に提出いたしました財務案件、すなわち、宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌特別会計収入支出総計画変更案、並びに2006年度真宗大谷派予算及び2004年度真宗大谷派決算等について、提案の趣旨説明を兼ね、財務並びに予算編成方針について申しあげます。

先ず2006年度一般会計予算については、経常部・臨時部合わせて851,800万円で、前年度予算に比べ2,240万円(約0.26%)の増となりましたが、前年度と同様、宗務の各分野において、宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌お待ち受け諸事業の推進に力点をおきつつ、事務の効率化と組織・制度の運営管理に必要な経費の抑制に努め、継続して一般会計の緊縮化に取り組んでまいります。併せて、今年度においても、全科目について2004年度決算及び2005年度予算の執行実績をもとに予算編成を行った結果、予算全体としては執行率が非常に高くなるものと予想しております。

そこで2006年度における事務効率化と管理経費抑制を目的とした業務の大幅な見直しの具体的取り組みのひとつとして、宗務所及び教務所並びに寺院・教会との間の物流の一元化・送金の電子化の向上を目指した取り組みを実施します。これにより、直接経費の削減はもとより、安全確実な業務環境を確保しつつ、主計並びに組長等の役職者の業務負担軽減を実現しようとするものであります。なお、これらの業務を確実に実施するための方途として、それぞれの分野で実績のある専門業者と業務委託契約を行う予定です。

その他、本派の教師養成機関たる大谷専修学院の運営が、将来にわたって安定しかつ自立性を保持することができるよう、今年度から新たに特別会計を設定し経理することといたしました。その理由は、一般会計の緊縮化が一層進むであろう予算執行の中で、尊重されるべき教育・人材養成機関たる環境を損なうことなく必要不可欠な経費を確保するために、宗門が担保すべき限度額並びに教育内容と質に相応した受益者負担の適正額を客観性と説得力のある形で明確にし、もって学院運営の自立性と安定を保持していこうとするものであります。

さらに、渉成園特別会計について、国の名勝指定を受けている渉成園が都心の庭園としての立地条件の良さから、真宗本廟参詣者をはじめ年間10万人を超える入園者を数えております。しかし、年々の寄付金収入は、1,000万円程度に止まり、文化財保護課からの助成金の減額に加えて、一般会計からの回付金の緊縮抑制を必要とする中で大変厳しい財務状況となっております。これに対応するため、年々実施しなければならない庭園管理・営繕に必要な経費を確保するための財源として、特に一般参観者からの応分の寄付金を窓口で明示して頂戴し、渉成園特別パンフレットを作製して贈呈する等これまで以上の丁寧なご案内に努めご理解を願いつつ、寄付金収入の安定増収を図ってまいろうとするものであります。なお、宗門関係者に対しましては、同朋新聞等に特集して特別拝観券を刷り込み、これを持参いただくことを通して従来どおりの参観方法を確保し、柔軟に対応してまいる所存であります。

 

次に、「宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌特別会計収入支出総計画変更案」については、御依頼額198億円の変更はしないものの、総額においては4億円増の299億円に変更しようとするものであります。

 

収入における主なものは、教行信証坂東本カラー影印本の頒布収入の増収、御遠忌記念出版として新たに取り組みを始めるシリーズ「親鸞の世界」及び御修復を機に取り組まれている「真宗本廟造営史」発刊に向けた冥加金の新設、また、宗門にご縁のある一般の団体または個人の方々からの懇志金の増収、さらに仏具の修理・新調に係る経費や内陣修復工事に伴う経費について、その一部を指定寄付として有縁の方々にお願いすべく、特別懇志金に御遠忌御修復指定寄付を新設し計上いたしました。なお、御影堂御修復に係る国庫補助金については、昨年度同様文化財保存修理に関する文部科学省の予算削減などに伴い減額いたしました。

支出における主なものは、まず御影堂御修復工事に伴う素屋根を阿弥陀堂素屋根にスライドし転用するための計画変更を行います。このことにより、御遠忌法要後に予定されている阿弥陀堂等の御修復工事の確実な推進を図るため、事前準備(調査・設計)業務を法要前に前倒しで行うことが可能となるばかりか、今回の御修復工事の中で一貫してその取り組みを行っている資源の有効活用による環境問題への積極的な対応を図ることができます。さらに、御影堂御修復工事費から素屋根解体経費を減じ、別途素屋根転用工事費を新設するとともに、阿弥陀堂・御影堂門御修復工事費から素屋根新築工事経費を減ずるという補正を行うことで、将来予測される消費税の増税に対処し得る財源を確保することも可能となります。このことについては、御修復委員会において、両堂の御修復を確実に遂行し、早期の完了を確実に目指す上で有益な措置であるとの判断を得て、この際大幅な計画変更を行おうとするものであります。

また当初計画になかったものの、境内全域にわたるライフラインの安定と防災・防犯に資する設備整備工事についても、御修復事業の一環として位置付け、御依頼額を増額したり平衡資金からの融通を受けることなく、今後は財政上の課題としては大変厳しくなる一方ではありますが、何とか一般会計からの回付金を増額してでも可能な限り年次に計画変更を行い、境内全域の設備工事の実現を目指してゆくべきであるとの判断をいたしました。よってこのことについても御修復委員会の意見を聞いて、今回新たに予算措置を行いました。

さらに、全10巻で構成するシリーズ「親鸞の世界」の発刊については、「宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌記念出版」として位置付け、各執筆者の著作権はすべて本派に移譲いただいた上で発行し、第一段階においては、編集業務の一部及び出版業務について専門の出版社に委託し、寺院・教会に対して特別先行予約を呼びかけて積極的に頒布いたそうとするものです。

その他、全般にわたり過去2ヵ年の決算が確定したことに伴い、2005年度宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌特別会計歳入歳出補正予算の編成を始め、各業務内容を点検し、総計画の変更に伴う年割額の変更など、より実情に即した内容に補正・変更いたすものであります。

 

 最後に財務を担任するものとして一言付言させていただきたいことは、宗務審議会「財源に関する委員会」からの答申に示された課題、並びに本年度に設置いたしました御遠忌専門委員会「御遠忌事業推進のための財政委員会」に示した課題などを整理し、今後の宗門財政の在り方について相当精力的な議論を踏まえ、時宜に相応した決断を遅滞なく行う必要性を痛感しているということであります。

第一に、相続講制度の立て直しであります。財源に関する委員会の答申に示されている「宗門護持金制度」は、全ての門徒に年々歳々に亘り護持金を拠出いただくことを縁として、「私にとって真宗本廟とは」の問いに応えて、一人ひとりに「宗祖としての親鸞聖人に遇」っていただくための聞法の座に連なってほしいという願いに基づくものであると受け止めています。まさに相続講の伝統によって培われてきた門徒のご懇念を尊重し、同朋会員志の至純なる精神を具現化せんとする提起でありましょう。これを宗門の制度として的確に具現化するためには、理念や願いを尊重する余り、寺院の現場における懇志収納取り次ぎの現実とあまりにも乖離した方法を選択してまでも改革を急ぐべきではありません。先ず、現下の相続講賞典として全国展開され、宗門活動に最も近い位置におられる門徒の方々に広く受け入れられている「真宗本廟須弥壇収骨」の在り方をこの際検証し、そのお取り扱いと奨励について、「宗祖のご精神に反する」と言った否定的、懐疑的意見があるとするならば、これを充分な話し合いの上で解消し、「亡き人を案ずる私が、亡き人から案ぜられている」との言葉どおり、一人でも多くの収骨参拝者にとって、この上ない仏法の縁と転ずる積極的な意義をあらためて明らかにする必要性があることを提言するものであります。

特に須弥壇収骨については財政委員会にも当局見解を示したとおり、「『法義相続・本廟護持』のスローガンを支えに120年にわたり継続されてきた相続講制度の賞典としての須弥壇収骨の功罪を曖昧にすることなく、宗門の将来展望に立ち、須弥壇収骨を今後も積極的に受け入れてゆくべき積極的な意義を明らかにしなければならない。」のであります。すなわち、「財政問題克服のためには、不本意ながら中止するわけにはいかない」と言った消極的姿勢を払拭し、真宗同朋会運動推進に資する教化の諸施策の柱のひとつとしての位置付けが必要であります。万一、このことが宗門的合意とならないのであるならば、御修復工事に並行して着手の決断が急がれる須弥壇収骨施設の設備拡充工事が大きく立ち遅れ、引いては宗門の財政基盤の一角に大きな打撃を与えるだけでなく、多くの門徒にいらぬ不安を抱かせ、引いては無用の混乱を招く恐れがあります。

第二に平衡資金制度についてであります。この制度は、宗門財政の不測の事態に機動的に対応するための財政措置として制度化され、今まで重要な局面で活用されてきました。しかしながら、その形態は本来の願いとは異なる二次的理由に基づく使用または融通が主なもので、財政的危機に対応する保管金としての備蓄を充分果たしていない現状があります。さらに宗門においては、同朋会館・研修道場及び宗務所(東本願寺会館)等、教化の推進と宗務執行に不可欠の施設が、鉄筋コンクリート造りの建物であるにもかかわらず、減価償却予算等の引当金の概念をもった確固たる財務制度もなく、又、平衡資金制度がこれらの課題をも補完する制度として有効に機能するという法的保証と宗門的合意は皆無であります。

 一方、今後も平衡資金制度を存続させ、資金を充分に確保していこうとするのであれば、何のために資金を積み立て保管しているのかと言う具体的な目的を明確にしておかなければならないのでないかと考えます。そのことが明らかとなれば、それぞれの目的ごとに年度予算に計上して保管金に繰り入れればよいことであります。また、大谷派規則及び会計条例で規定されているような歳計剰余金の半額を平衡資金に繰り入れるような方法では、御遠忌募財による経常費の伸び悩み、さらには予算の高執行率化による決算など、剰余金が過去のように潤沢に生まれる可能性は極めて低いと言えます。むしろ、現在鋭意進められている教区間の御依頼割当率の公平化を目指した門徒戸数調査委員会の調査が適正に進められ確実に行われるならば、各教区の大幅な完納超過による決算剰余金の増加を期待することは一層困難となります。このように歳計剰余金について右肩下がりの状況の中で、半額繰り入れでは十分とはいえず、一方で残り半分を繰越金として計上することでは、ますます予算編成が緊縮していく傾向は歪めません。この際、このような財務制度の是非を積極的に議論し、年次に必要不可欠な経費とともに、将来に向けて必要な経費の積立金をすべて予算計上し、これに基づいた総予算額と教区に御依頼すべき額とを算出して財政方針を透明化すべきであると考えます。よって、このような議論を十分尽くし、場合によっては大谷派規則及び会計条例改正をも視野に入れた抜本的な改革を行う時期にきているのではないかと思うのであります。

 

 今議会に提案いたしました諸案件は、今後の宗門財政を見据える上で目に見えないところで重要な内容を抱含いたしております。何とぞ慎重審議の上、原案通りご可決賜りますようお願い申し上げ財務長演説とさせていただきます。

以上